はじめに
イスラム教徒はラマダンの月に行う断食(サウム)を通じて、精神的な訓練により道徳観や倫理観を高め、身心と魂の浄化に努めます。それと同時に、イスラムの精神性と倫理の総和とも言われる Taqwa(タクワ)を正しく実践できる術を向上させることにより、信者たちの魂が天地万物の創造主であられるアッラー(完全無欠で至高なる御方 Subhanahu Wa Ta`ala)に近付くことができるため、ラマダンの月は一年で最も神聖な月となります。
イスラム教徒にとって一年で最も神聖で重要な夜はいつ?
その神聖なるひと月であるラマダン月の中でも、更に神聖で荘厳な夜に当たるのが、「カドルの夜(Laylat al-Qadr ライラト・アル・カダル、運命の夜、力の夜 など、様々な呼び方がある)」です。
聖なる月の第 27 日目(ラマダン月の最後の10日間の奇数の夜の内の 1 つ)であると一般的には言われており(今年2023年はトルコでは4月17日が第27日目に当たります)。その日の徴候の 1 つは、その夜の翌朝、太陽は明るく澄んでいますが、太陽光線はそれほど目に見えないということです。それは、その朝、天使の羽のおかげで、太陽の光が遮られると言われています。
そしてその夜は、預言者ムハンマド様(彼にアッラーからの平安と祝福あれ Sallallahu Alayhi Wasallam) が、天使ジブリールから全人類への導きとして、クルアーンの最初の節を受け取った夜にあたります。 それ以来23年間にわたって、天使ジブリールから預言者ムハンマド様(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)の人生の出来事に応じてクルアーンの全ての節が少しずつ啓示されました。
カドルの夜の崇拝行為は1000ヶ月分に相当する⁈
カドルの夜については、クルアーンの第97章「誉の夜(Al-Qadr/ The Majesty)」3節において、「誉れの夜は、千の月に優るもの」と説明されています。「カドルの夜」に行う崇拝行為に与えられる功績は「カドルの夜」を含まない月の1000ヶ月分の崇拝に相当します。年に換算すると83年以上分の崇拝に等しいということになります。この強力な夜に、最も恵み深く、最も慈悲深いアッラーは、この夜、祈りの間に悔い改める信者の罪を許し、無数の祝福をもたらす一夜を与えてくださいました。
アッラーからの慈悲と祝福にあふれたこの夜には、天国の門が大きく開かれます。そして、至高なるアッラーの命令により天使ジブリールが他のすべての天使たちと一緒に信者のために祝福と慈悲を持って、天から地に降臨します。
このことについては、クルアーン の第97章「誉の夜(Al-Qadr/ The Majesty)」第4節で、「天使たちと魂(ジブリール) はそこにおいて、彼らの主のお許しと共に、(かれがお定めになった) 全ての物事ゆえ、 次々と降臨する。」と記されています。
また、クルアーンの 第97章「誉の夜(Al-Qadr/ The Majesty)」第5節には、「黎明れいめい の出現まで、 それは (いかなる悪からも)まさしく安全なのである。」と記されています。
さらに、神聖なるラマダンの月には、地獄の門が閉ざされ、シャイタン(サタン: 悪魔 )は閉じ込められています。シャイタンが悪や害を信者に及ぼすことができなくなり、かつ、信じられないほどの数の天使たちが地上に降り、信者に寄り添うため、全ての害と悪から安全であり、 地球全体に善と平和が訪れると言われています。
クルアーンの第97章「誉の夜(Al-Qadr/ The Majesty)」全5節にカドルの夜のことが記されています。
クルアーン第97章1節
(アラビア語) إِنَّا أَنْزَلْنَاهُ فِي لَيْلَةِ الْقَدْرِ
暗唱者: Mishary Rashid Alafasy
(読み方) Innaa anzalnaahu fee lailatil qadr
(英訳)And what will explain to thee what the night of power is?
(和訳)本当にわれらは、誉れの夜にそれ (クルアーン*)を下した。
クルアーン第97章2節
(アラビア語) وَمَا أَدْرَاكَ مَا لَيْلَةُ الْقَدْرِ
暗唱者: Mishary Rashid Alafasy
(読み方) Wa maa adraaka ma lailatul qadr
(英訳)We have indeed revealed this (Message) in the Night of Power
(和訳)(預言者*よ)誉れの夜が何かを、 何があなたに知らせるか?
クルアーン第97章3節
(アラビア語)لَيْلَةُ الْقَدْرِ خَيْرٌ مِنْ أَلْفِ شَهْرٍ
暗唱者: Mishary Rashid Alafasy
(読み方) Lailatul qadri khairum min alfee shahr
(英訳)The Night of Power is better than a thousand months.
(和訳)誉れの夜は、千の月に優るもの。 ²
クルアーン第97章4節
(アラビア語)تَنَزَّلُ الْمَلَائِكَةُ وَالرُّوحُ فِيهَا بِإِذْنِ رَبِّهِمْ مِنْ كُلِّ أَمْرٍ
暗唱者: Mishary Rashid Alafasy
(読み方) Tanaz zalul malaa-ikatu war roohu feeha bi izni-rab bihim min kulli amr
(英訳)Therein come down the angels and the Spirit by Allah´s permission, on every errand:
(和訳)天使たちと魂(ジブリール*) 3はそこにおいて、彼らの主のお許しと共に、(かれがお定めになった) 全ての物事ゆえ、 次々と降臨する。
クルアーン第97章5節
(アラビア語)سَلَامٌ هِيَ حَتَّىٰ مَطْلَعِ الْفَجْرِ
暗唱者: Mishary Rashid Alafasy
(読み方) Salaamun hiya hattaa mat la’il fajr
(英訳) Peace!…This until the rise of morn!
(和訳) 黎明の出現まで、 それは (いかなる悪からも、まさしく安全なのである。
カドルの夜の崇拝行為は信者の運命を左右する
カドルの夜はアラビア語で ” Laylat-al-Qadr “といいますが、そのアラビア語の単語は2つの意味で構成されています。Laylat は”夜”、Qadr は “力又は運命” などの複数の意味を持っています。
このカドルの夜(ラマダンの最後の10日間*1)に過去の過ちを悔い改め、そして至高なるアッラーに赦しと祝福を求め祈る者、又は夢や希望を嘆願し祈る者は、1000ヶ月分以上に値する崇拝行為を行ったことになり、その崇拝行為は翌年の各々の運命を良い方向に変える可能性があるのです。そのため、この夜(ラマダンの最後の10日間*1)にはその機会を得るために、多くの信者が一晩中 { Maghrib(日没) から Fajir(夜明け)}まで崇拝行為を行います。この間、一晩中眠らずに起きて礼拝行為を行うのが望ましいのですが、それが難しい場合は、 Fajir(夜明け)の2時間前に起きて礼拝行為を行うことが最善とされています。
また、至高なるアッラーから承認を得た天使ジブリールは、翌年に起こるべき地球上の全ての事柄、たとえば、誰が生まれ、誰が死に、誰が報われ、誰が罰を受け、どの国で戦争が起こるのかなどを、この夜に采配を振り、決定をします。
*1 カドルの夜がラマダン最後の10日間の内の奇数日の内の一つであることはわかっていても、その日が一体どれかということが誰にもわかっていません。そのため、信者たちはその一夜の崇拝行為が1000日分以上の崇拝行為に等しいとみなされる、最も神聖で重要なこの一夜を逃さないように、10日間を通じて、祈りや寄付、慈善活動などの善行を行うことに集中します。
カドルの夜に行うことが推奨されていること
- 睡眠時間を削って礼拝に没頭する
- 仕事の休みを取得できる人は、ラマダン最後の10日間休暇をとって、至高なるアッラーに感謝をし、崇拝することに専念する。
- 聖なるクルアーンを読んで、その意味を理解する
- 愛する人たちのために祈る
- 恵まれない立場の人たちのために祈る
- ザカート(寄付)を行い貧困者を支援する
- ラマダン月の最後の10日間を Itikaf(イティカフ*2)を実践するために、マスジド(モスク)で過ごす。預言者 モハンマド様(彼にアッラーからの平安と祝福あれ) はラマダンの最後の 10 日間、彼が亡くなるまでイティカフを実践していました。
*2 Itikaf (イティカフ)とは、信者を至高なるアッラーに近付ける崇拝行為です。Itikafを実践することを望む信者は、1日から数日間、マスジド(モスク)に籠り、礼拝、クルアーンの暗唱や学習、Dhikr(ディクル*3)を行い、至高なるアッラーへの崇拝だけに意識を集中し、赦しと祝福を求めます。また、信者が Itikaf のためにマスジドに滞在をしている間は、一切マスジドの外へ出ず、飲食や睡眠もマスジドの中で行います。Itikaf はラマダン中だけでなく、一年中いつでも行うことができ、その祈りはさらなる美徳のために行われる” Nafl”という自発的な祈りにあたります。
*3 Dhikr(ディクル)とは、至高なるアッラーのことを常に思い出し称賛することです。そのために、信者たちは、クルアーンの中の短いフレーズや、節や単語を繰り返します。例えば「Subhanallah スブハーナアッラー(アッラーに栄光あれ)」、「Alhamdulillah アルハムドゥリッラー(すべての賛美と感謝はアッラーのみに属する)」、「Allahu akbar アッラーフ・アクバル(アッラーは偉大なり)」などの至高なるアッラーを讃えるフレーズを声に出して、もしくは心の中で繰り返して行います
最後に
今年のラマダンは筆者Ranaにとって、イスラム教に改宗してから4回目のラマダンになります。最初の2年間は断食を行うことだけで精一杯で、ラマダンについての意義や目的もよく勉強をしないまま臨んでいました。今年のラマダン月に入る少し前から、自分自身のイスラム教に関する知識の乏しさを恥ずかしく感じ、そして勉強を怠たったまま自分自身をイスラム教徒と名乗ることに罪悪感も感じるようになりました。良いイスラム教徒になりたいならば、もっと広く深くイスラム教についての知識を得るため勉強を続けないといけないと、自分自身を奮い立たせ、ブログにイスラム教に関する記事を載せることになりました。今この記事を書いている時は、既に「カドルの夜」が含まれるラマダン月の最後の10日間になっています。この記事を書いて、多くの方々に知識を共有する行為が至高なるアッラーに対する崇拝行為の一つと認めてもらえることを願って、睡眠時間を削って記事を書き上げました。この私の書いた記事が、カドルの夜についてまだあまり理解をされていなかった方々の助けになることを願っています。